Date: Thu, 2 Feb 95 15:07:23 JST
From: kitamura@kobe-u.ac.jp (Shinzo Kitamura)


皆様
                    神戸大学工学部情報知能工学科
					  北村新三
いろいろのお見舞を戴きまして誠にありがとうございました.被災地よりE-mailにて
一報申し上げます.地震の規模につきましては既に報道によりご存知と思いますので
,個人の印象とします.
1.衝撃 早朝,このごろ6時近くなると歳のせいかうつらうつらになっております
が,突然の衝撃,もちろん地震と直感するわけですから,その揺れのすごいこと.直
下型ということらしく,横揺れ,立て揺れ同時で,15あるいは20秒程度でしょう
か,ドッドドッドドドドドドッドッドときました.これはあかんかと思ったのですが
,何とかおさまってきまして,逃げ出さないといけない,電気をつけようとしたら,
つくはずなし.幸い懐中電灯は枕元にありました.貴重品を出せといっても日頃はそ
の用意をしておりませんでした.妻がとりあえず取り出し,子供と一緒に1階におり
た頃はほんの少しの余震でした.身の回りのものをあわててボストンなどにつめ,飛
び出す用意ができ,やおら小型ラジオをいれたころはもう6時30分ごろと思います
.こうなると余震がこわくなります.揺れは子供のころ京都に住んでいて感じた福井
地震の比ではありませんでした.
2.状況 衝撃はすごかったのですが,実際の被害がそれ以上にすざまじいとは思っ
てもみませんでした.あと余震が続きますがこれは気持ち悪いものですが,すこしづ
づ弱くなっていくようです.避難の準備がすむと何となく大学や学生が気になります
.電話にはもちろん不通.そのうちに博士課程の学生2名が単車にて駆けつけてきて
,彼らに聞いて被害の大きさがわかりました.全壊,半壊の建物続出ということです
.彼らに,講座の学生とくに下宿生の安否を確かめに回るようにいって,昼には大学
で落ち合うことにしました.
3.大学 まず車で行こうとしましたが,道のあちこちが盛り上がり段差がついてお
ります.そこへ多くの車.歩いても1時間以内ですが,久しぶりに自転車にのって大
学へ駆け付けました.ところが,大学は概観は変化なし.このところ35年以上たっ
ている建物の再開発の対象にもなっておりましたので,1棟ぐらいは倒壊しているか
とも,良くない期待もしていたのですが.硝子はときたま割れております.しかし自
室に入って茫然,本棚がひっくり返り,部屋はめちゃくちゃです.書類,本の上をあ
るいて机にたどりつきましたが,Mac,98は落ちていず,また電気も電話も生きて
います.この間,何度も余震を感じますが,研究室の方を見てまわりますと,本立て
,書類棚は多く倒れていますが,ワークステーションはラックなどに乗っており以外
と無事です.Macの内2台が転げ落ちておりましたが,どうも無事のようです.とこ
ろがピューマロボットの上にまともに本棚てが倒れており,本体は無事でも,多分先
につけた6軸センサーはだめでしょう.(また仮想現実システムも動かないことがそ
の後わかりました)。
4.犠牲 電話連絡もほとんどできない状況でしたが,翌日に工学部に災害対策室(
仮称)が設置され,まず教職員,学生の安否確認から.一番の心配は圧死です.少し
づづ情報が集まってきましたが20日現在で教官は負傷2名,痛恨の極みは工学部だ
けで学生8名(うち1名は中国留学生)の圧死がわかったことです.まったく何と言
えばよいのか.情報知能工学科でも,池田雅夫教授の修士学生が1名犠牲になってい
ます.まだ増えるのか.一般の避難者も集まって来ます.工学部では教授会を行なう
大会議室ほかを解放.学生は暖房のない学生ホールにしましたが,一般者には絨毯,
暖房付きの室.国際文化学部には400人も集まっているとのことですが,これは体
育館などで暖房なし.18日はまだ救援物資も届かず,大学生協にある米と材料を出
してもらい,工学部の広場で炊き出し.大鍋5つにいろいろのひと200人以上が集
まりました.2日目頃からは徐々に救援物資が到着.20日に配った弁当は名古屋か
らでした.全国からの救援に多謝.
5.役に立たないもの,役にたつもの 前者の代表は自動車(4輪).これは混雑す
る町,家屋倒壊で狭くなった町,徒歩避難者の乱歩する町では,役に立たないどころ
か,救難作業車,救難物資運送車の邪魔.という私は家から大学までの裏道を通って
使っておりますが.ただし,これにはそれなりの苦労もあります.この道が行けると
いってみると,倒壊家屋や塀が道を占拠していて通れない.道が陥没していて腹を打
つということです.この点,単車は大きのも小さいのも役に立ちますね.震災後の食
料買い出しにも便利です.自転車は坂の多い神戸では△.もちろん歩行機械は瓦礫の
上でも万能ですが,欠点は機動性を欠くこと.18日には阪急電車の大阪(梅田)と
西宮北口間が開通しましたが,この西宮北口から神戸大学のある六甲までは約15キ
ロでしょうか.大阪,京都方面からはこの徒歩を要求されました.(JRや阪神電車
の駅はもっと遠い).しかし,健脚はおります.18日には当学科の平井一正教授ほ
か3名もこのルートで来ておられました.やはり歩行が最善ですか.余談ですが私は
本日(21日)妻子を京都に避難させるため,岡本から西宮北口(やく12キロ)間
を避難民として往復しまして,荷物がなくても今の人間には苦痛ですが,さすがにま
いりました.まだ震度3ー4程度の余震があり,そこへ自宅の近くに地滑りが生じそ
うとのニュースに,いよいよ私自身も工学部で避難民として扱って戴くことになりそ
うかとの予感でしたが,昨日(22日)それが実現し,はじめて難民の経験を近くの
甲南大学で得ました.
このほか役に立つもの:懐中電灯と携帯ラジオ(生きている電池を含めこれは必携.
蝋燭はエレガントですが,これはだめでしょうね),
ポリタンク(これも当面の飲料水の確保に必携.20リッター入り3本は欲しい.も
ちろん,飲料水以外にも水は必要です.多分もっともこまるのがトイレ.今日び水洗
以外は少ないでしょう.飲料水は貴重で使えません.昨日の風呂の残りがあれば,3
日程度はもつでしょう.しかし,こちらの経験では5日目でも水は来ません.どうす
るか.単車か徒歩で何処かへ水汲みにいくことになります.私の場合?10メートル
の道をわたると雨水用の溝になぜか以前からきれいな山水が勢いよく流れております),
食料(これは少しあれば良いということがわかりました.ただし,幼児は別,救援は
以外と早く来るようです.たまには貧食もいいのでは),
搬送用(背中に架けるバックパックと例のトランクを乗せるトロリーというのかキャ
リーというのか・・・)
風呂(これは問題,まず水と都市ガスがなければ私のところは不可能です.この後者
は一番回復が遅れます.聞くところによりますと,灯油のふろもあり,これだと灯油
が十分あれば水次第です)
6.家屋 これが一番の問題点と感じました.まず古い木造家屋は多くが全壊あるい
は半壊.またむかし文化住宅と呼ばれた木造2階建ては非常に危険です.それでもま
だ2階は残っているところもありますが.学生の圧死もほとんどこの手の住宅かと思
います.鉄筋の大きなマンションはまずOK..しかし小さい施工の悪いものは傾いてい
ます.とくに多いのは1階がつぶれているものです.また大きなビルでも古いものは
4,5階が座屈しているものも有ります.そのあたりが今回の振動の腹になったので
しょうか.本学の耐震構造の専門家によりますと,ようするに20年以上前の家屋は
危ないということでした.また寝室には倒れるものや落ちるものは絶対におかないこ
と.私の場合タンスが倒れましたが,かろうじて私を避けてくれました.上の件,皆
様のご参考になれば幸いです.
以上取り急ぎご笑覧ください.

皆様
                    神戸大学工学部情報知能工学科
                        北村新三
余震というのはまだ来るのですね.昨夜(23日)も震度3がありました.慣れては
きておりますが.地震後1週間が経ちましたが,現在も水道,ガスは大学,自宅とも
復旧しておりません.ただ大学では雑用水が使え,トイレなどは問題なく、また煮沸
すれば飲めます.もう一度印象記(2報)をお送りします.よしなにご処理ください.
7.大学のその後 徐々に教官,学生も帰って来ております.交通事情は依然悪く,
ようやくバスが国道2号線の三宮ー西宮間を走りだしましたが,すごい人のようです
.遠く伊丹,西宮などから単車や自転車で来ている人もおります.来ることができる
距離にいても来ない人もいますが,何か事情があるのでしょう.大学は今から卒業,
修了のさせ方,学期末試験,入学試験と大変な課題を抱えており,毎日12時から対
策会議を開いております.また丁度,学年末で教官人事(部長や新任,昇任教官の選
考)も抱え大変です.現在の所,卒業,修了は予定どうりさせるつもりです.
学生の被害は昨日で工学部で10名(うち留学生2名,大学全体では32名)と増え
ました.研究面では私の研究室は比較的コンピュータに依存していたところが多く,
今回で破綻するとは思いたくありませんが,実験系は大変です.隣のY助教授は何年
も,2千万円近くかけて作ってきたレーザー精密計測装置が,浮上定盤もろとも2台
ともひっくりかえり,レーザーもすべてだめになったとなげいております.年令から
考えて,彼の研究中断が学者として致命的にならないよう祈ります.
入学試験は前期を2月26日,後期を3月13日に変更し,3箇所(東より大阪大学
,神戸大学,岡山大学)で行うことになりました.両大学のご好意にも感謝します.
偏差値が落ちることは確実でしょうが,これは当大学に対する試練でしょう.
8.街 大きな道路から障害物は少しづづ取り除かれ,また不必要な車も減って来た
のか,交通事情は良くなりつつあります.しかし,街を歩いてみてつくづく古い家は
だめだと再認識しました.また,塀も大問題です.これはもちろんプライバシーを守
のには重要ですが,まずだめなのはブロック塀.おおくはパタリと倒れて危険な歩道
石になっております.つぎは土塀あるいは石組の塀.これも危険ですね.フェンスは
ほとんど大丈夫のようです.
9.救援物資とボランティア 物資はいろいろと送られてきており,食べものには困
っていないようです.街でも無料の配付,あるいは商店での販売も行なわれておりま
す.また他府県や自衛隊の給水も確保され飲料水には労力を厭わなければ問題はあり
ません.医療関係も良くなりつつあるようです.全国からのご援助に心から感謝いた
します.また多くのボランティアが活動しております.彼らの努力には正直頭が下が
ります.私の避難先の甲南大学の学生も活躍しております.近大も頑張っておりまし
た.それに較べ神戸大学(あるいは国立大学か?)はだめですね.学生の中にそうい
う発想が少ない.教官の中から提案もありましたが,事故時の責任論などが先に出て
しまいます.ただし,地震翌日の炊き出しなどには土木工学科の学生が大活躍したこ
とは申しそえます.やはり,専門から相当に状況を意識しているからでしょうか.
上乱文にて失礼します.
鎮魂 神戸大学で学生39名(うち、留学生7名、また工学部は10名、26日現在
)が亡くなりました。その無念さを想像し、心のやすまる気がしません。ここにご冥
福を祈ります。
謝意 今回の災害に対し、全国から海外から寄せられたご好意に御礼申し上げます。


北村新三 神戸大学工学部情報知能工学科
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